BLUE MOON
第5章 嫉妬
「男の人って…」
最初は桜木チーフが手離さないアシスタントに興味があっただけだった。
大きな瞳が前菜のプレートと俺の顔を往復させながら躊躇いながら口を開く彼女
「男の人って?」
言葉の続きを促すように俺は素っ気なくおうむ返しをした。
彼女はナイフとフォークを持っている手を下げると
「綺麗で色気のある女性の方が好きですよね」
小さな声で呟いた。
以前俺に向かってステキな彼氏がいるんだと威勢よく言い放った彼女
「クククッ」
恋愛ベタです。と宣言しているような可愛らしいものだった。
「…ヒドイ」
笑っちゃいけないと思っても頬を膨らませ唇を尖らす彼女の顔を見ると
「ゴメン、あまりに可愛い質問で」
彼氏が彼女に惚れた理由がわかる気がした。
「もういいです」
さっきまで小さく切り分けていた前菜のハムをクルリと丸めて大きな口を開けて頬張る。
見ていて飽きない。
「悪かったって」
もっと見ていたいって
「フンっだ」
素直にそう思える人になっていた。
それは食事の所作なのか豊かな表情からなのか…彼女の柔らかな雰囲気がそうさせた。
彼女が言う綺麗目で色気がある女性とは反対側にいると言ってもいい。
「まぁ、確かに綺麗目の女は目の保養にはなるけど」
ナチュラルメイクに自然な髪色のストレートなセミロング。
「傍においとくなら気取らない女がいいな」
そう目の前でキョトンとしている桃子さんのようにね。
*
まただ。
アイスグレーの瞳が弧を描く。
冷たいのに柔らかな特別な色
「毎日豪華な料理じゃ飽きるだろ?」
「まぁ…」
「それと一緒だな」
その瞳は涼さんと正反対な色をしている。
「何があったのか知らねぇけど、ステキな彼氏にちゃんと聞いてみな」
「それができたら五十嵐さんに相談なんかしてませんよ」
「まぁそうだな」
五十嵐さんは運ばれてきたメイン料理のお肉にナイフを入れると
「もしそれが理由でフラれたら…」
手際よく切り分けて口に運び
「俺が責任とってやるから」
…え
まっすぐに私の瞳を捕らえた。
…ガチャン!
「す、すいません」
からかわれているだけなのに何やってんだアタシ
「そのままで、新しいフォーク貰うから」
でも 瞳の色は違えど涼さんと同じだ。
そのアイスグレーの瞳が優しく微笑んでいた。