BLUE MOON
第5章 嫉妬
「ごちそうさまでした」
会社までの帰り道、五十嵐さんと肩を並べて歩いた。
「次はおまえがフレンチ奢れよ」
「え!?」
髪の隙間から覗くアイスグレーの瞳
「俺の奢りだって言うのに財布広げて『払います払います!』なんて。そんなに払いたいなら次は遠慮なくご馳走して貰うから」
「うぅ…」
出会ったあの日よりも冷たく感じなくなっていた。
「楽しみだなぁ、高級フレンチ」
「こ、高級フレンチ?!」
それはこのオレ様に慣れてきたんだろうか。
いや、慣れたのではない。
「銀座で寿司でもいいぞ」
「五十嵐さん!」
お互いの前に高く聳えていた壁が壊されていったんだ。
そういえば仕事中もそうだ。
彼は私のミスをなぁなぁにしないで指摘し改善してくれる。
その結果は涼さんから預かる仕事にも活かされて前よりもスムーズに仕事が進むようになった。
私はただのアシスタントだけど、こんな風に営業部の二枚看板の傍にいると少しは会社に貢献してるのかもなんて考えたりして
「よし!午後からもがんばろうっと!」
「単純なヤツだな」
会社へと足を向けたのだが
「さすがだな」
冷たい声が私の頭上から放たれる。
「え?」
五十嵐さんの顔を見上げるとアゴでクイッと道路の反対側を指す。
そこには見覚えのある一台の高級車。
「…あっ」
その高級車の助手席から出てきたのは涼さんで
「桜木さんも忙しい人だな。あれってうちのメインバンクの頭取の娘だろ。」
ハンドルを握るのはこの間涼さんが腰を抱いていた彼女…
「頭取の娘さん?」
「あぁ、次期社長ともなると花嫁選びも大変だってことだな」
梅雨が開けた7月の空はビルの谷間から見上げても蒼くて高い。
照りつける太陽は痛いほどだ。
結婚を前提に…
涼さんはそう言って私の心を動かし愛してくれた。
…そうだよね
やっぱり私は遊び道具にしか思われてなかったんだ。
たくさんの感情が渦巻く。
「やっぱり男の人は綺麗な人が好きなんですね~」
「桜木さんはあぁいう人を選ばなきゃいけない立場だからな」
涼さんは彼女から小さな袋を受けとると手を上げて立ち去る車を見送った。
その瞬間視線が重なったのを感じた。
「行くぞ」
「は、はぃ!」
私は本当にバカだ。
だって視線が重なったその瞬間私は涼さんに微笑んでいたから。