BLUE MOON
第5章 嫉妬
真っ直ぐに向けられたアーモンド色の瞳を見つめ返すことが出来なかった。
「…ったく」
溜め息混じりに涼さんは言葉を紡ぐと
「この会社の詳細ってまだ資料室だっけ?」
「…え…はぃ…」
「悪いけど急いでるから一緒に探してくれる?」
戸惑う私をよそに資料室まで連れ出した。
前を歩く涼さんの背中を見ることも出来なかった。
1階下の資料室までの距離がやけに長く感じる。
ポケットに入れられた手を見ながら私は小さく溜め息をついた。
さっきまでの空元気な私はここにはいなかった。
…ここで終わるんだ
涼さんがIDカードをスライドさせたそのときに頭に浮かんだフレーズ
…ピピッ
カチャ
涼さんは扉を開けると私の背に手を添えて部屋へと誘導した。
…カチャリ
鍵を閉める音が私の心に響く。
高い棚に囲まれたこの部屋、窓からの光はここまで届かない。
俯き目を閉じる私にはさらに届かなかった。
「…あっ」
でもね、光は届かなくても
「モモ…」
彼の掠れた声が耳に届く。
「顔上げて?」
いつもと変わらない優しい声に素直に応じると
「…桃子」
彼こそ寂しそうに微笑んでいた。
*
ここに連れてきたからどうなるっていうのか
最近のモモはどこか上の空だった。
家で飯を食ってるときも愛でているときも…他の誰かのことを考えてるようで
今だってそうだ。
キミは俯き俺の顔すら見ない。
そんなキミを資料室まで連れてきて俺はどうしたいのか。
俺に断りもなく五十嵐と仲良く昼休みを過ごしていたことを咎めたらいいのか
…そんなこと出来るわけない
だって俺はキミにいつもそんな顔ばかりさせてしまっている。
「桃子…」
想いばかりが大きい俺は抱きしめることもできないまま愛しい人の名前を呼ぶとキミは大きな瞳にを涙をいっぱい溜めて顔を上げた。
カップを持つ指先が震えていた原因はやっぱりオレだ。
「今日 早く帰るから」
首をコクりと縦に振ってくれたモモの頭に手をポンとおく。
これが今の俺の限界だった。