BLUE MOON
第5章 嫉妬
「ただいま…です」
はじめてだと思う
「おかえり」
平日に涼さんが私を迎えるのって。
会社の在席ボードには直帰と書かれていた。
どのぐらい早く帰ってきたんだろう。
涼さんはお家モードのさらさらヘアーにTシャツ、ハーフパンツ姿でキッチンに立っていた。
「暑かっただろ?モモもシャワー浴びてさっぱりしてきな。飯もう少しで出来るから」
「スミマセン…」
こんなに気を使ってもらって…
愛してもらっているとは思うけどそれは私と同じ愛しいと思う愛なのか
それとも 私の知らないもっと軽い愛なのか
熱めのシャワーを浴びてすべてを洗い流す。
特定の彼女を作らずに今まで過ごした涼さんはこんな下らないことで悩む私を面倒だと思っているだろう。
だからだ、だから私は他の女性と過ごしている彼を咎めることなんてできない。
もしかしたら私の知らない男女の関係がそこにはあるのかもしれない。
セフレなんていうのもひとつの形だろう。
経験が少ない私じゃ彼ぐらい経験豊富な人ではやっぱり満足できないのか
「なに考えてんだろ…」
下らないことばかり考えてしまう。
「さぁ座って」
テーブルには私には作れない料理が並んでいる。
タコのカルパッチョにトマトとチーズの冷静パスタ
お昼もイタリアンだったなんていつも通りに振る舞ってくれる涼さんに
「暑いからさっぱりしたものの方がいいだろ?」
言えなかった。
…なにやってんだろう
テーブルを彩る鮮やかな色が滲んでいく。
「モモ?」
こんなに幸せなのに
「桃子?」
こんなにあたたかいのに
「ごめんな」
涼さんは悪くないのに
「違う…」
涙を流す私を抱きしめてくれる。
「違くないだろ?」
昼間の女性はターコイズブルーのワンピースを身に纏っていた。
「話してよ」
でも今の私はスッピンで同じノースリーブのワンピースでも部屋着のワンピース
「涙の理由…俺に全部話して」
身分も立場も違う私
「桃子」
この胸にすべてを委ねる決心したのはつい最近
「涼さ…」
揺らぐ気持ちを抑え彼の大きな背中に腕を回す。
そして一言
「捨てないで」
あの頃の私には戻れない
「捨てないで下さい…」
こんなにもあたたかい場所を知ってしまったから