
オキナグサ
第9章 狂嫉
「今の大地がどんな人間かなんて知らないが、聖くんが自分から人に喧嘩を売るような人間ではないことを知ってる」
「なっ……」
「!」
なにそれ
可愛い
ふわっと微笑み掛けられたの
それ、やばい
「すまない。俺が遅れたせいだな」
「ううん。俺こそ、黙って無視できなくてごめんなさい」
そうだ
無視すれば良かったんだ
そしたら煩いハエが飛んでるぐらいにしか思わなかったのに
「おい! 勝手なこと言ってんじゃねぇよ!!」
なんだかスッキリとした気持ちの俺は、朝陽さんを背中に庇うようにして岩橋さんに向き直る
朝陽さんには聞こえないような声量で
絶対に許さないから、と囁いた
「朝陽さんはとっくに俺のもので、お前のものだった時間なんて1秒だってねぇよ」
「……っ」
あれ
意外と簡単に怯むんだな
なんだ、やっぱり小物だったんだ
「俺の親父に……言いつけてやる……お前なんかどうにでもなるからな……!」
「その年になって親父に頼るしか脳がないのか。残念だな、色々と」
「……っ!!!」
怒りに顔を真っ赤に染めた岩橋さんは、何かを叫びながら駅へと姿を消した
捨て台詞までは吐かなかったな
