好きにさせて
第2章 二人
茜は
客の注文を受けて
カウンターの中で
いそいそと働き始めた
おでんは
なかなかの味で
これなら晩飯食いに
毎日来てもえぇなぁと
思いながらビールを手酌すると
俺はふと
この店を初めて見た日のことを
思い出した
小夜の店を知ったのは
転校してきて
わりとすぐやった
俺は放課後
引っ越してきたばかりの
この町を散策するように
自転車でウロウロしてた時
偶然見つけたんや
茜が母親と
この店の前にいるのを
その時の茜の母親は
着物を着ていて
子供ながらに
自分の親とは違う
ちょっと色っぽい女の人に見えた
それからやったかな…
放課後
数人で遊ぶ仲間の中に
茜もおって
いつの間にか
茜の家にも遊びに
行くようになったんや
「野崎くん
嫌いなものある?」
「う、ん?食いもんか?」
「そう」
「特に無いけど
おでん美味いわ」
「ほんと?」
「ほんま。
お世辞やないで」
「嬉しいなぁ」
それからも茜は
笑顔で店を切りもりしていた