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桜花楼の恋

第12章 隠された胸の内

いっ、今なんて言った!?



五「トッツー」

旦那「会って話しがしたい太夫がそう言われたので若い衆が親父さんを捜していたのですが」



嘘でしょ?



番頭「今朝、どざえもんで上がったと」

旦那「たぶん酔っぱらって足を踏み外し川へ落ちたのでは、そう番屋では見ているそうです」

戸「ぁ…あぁ‥ガクガクッ…そん‥な…」



あの人が死んだなんて。



北「トッツーっ」

戸「北山、クッ」



ギュッ!



北「おまえは独りじゃない俺らが傍にいる」

戸「…うん‥うん…ヒクッ」



もし、そんな事があっても。



五「郁人を呼んで来る」

北「頼む五関」



涙なんか出ないと思っていた、だって自分がこんな所にいるのは全部あの人のせいだから。

なのに…



「祥太ほら、高い高ーい」

「きゃっきゃっ」

「いい子に育てよ自慢の息子に、ニコッ」



いざそうなると、頭に浮かんで来るのは幼いころ遊んで貰った楽しい事ばかりでさ。

どうしてだよ…



戸「うっ、わあぁーっ」

橋「トッツー、泣かないでトッツー」



もう、身内は誰もいない確かに北山の言う通り皆が傍にいてくれるけど。



戸「ううっ、ヒクッ」



心いっぱいに広がる悲しみは、自分があの人に愛されていた証拠なんだって。

こんなにも―

ハッキリと身に染みて思い知らされるだなんて思ってもみなかった俺は。



戸「うっあぁーっ」



自分の感情をどうしたらいいのか分からず。

ドタドタドタ!



河「トッツーっ」

戸「河合」



ギュッ!



戸「父さんが…とっ‥父さんがぁーっ」

河「くっ」



ただ泣きじゃくってしまっていたんだ。

でも皮肉なことに、親父が死に借金が増える心配はなくなって。

これで、少しは楽になれる。

どこかで、そう思っている自分もいて。

が、それは俺と河合にとって春が来る兆しの前触れでもあったかの如く。

この数日後、もっと驚くべきことが俺達の元へ届く事となる。

一通の手紙と共に━




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