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桜花楼の恋

第25章 それぞれの春

腰元「乳母(メノト)が参っております」

北「んっ?雪が乳をあげるんじゃないの」

藤「代々、大名家ではこうすることが習わしとなっている」

北「ふーん、んだか」

腰元「ささ姫さま想松君をこちらへ」



このとき、チラッと若子を見た雪の瞳を俺は忘れない。

切なそうな…



腰元「お二方も、お雪の方さまは疲れておいでですので」

藤「そうだな」

北「身体が元に戻ったら、また来るわ」

雪「はい」



が、その後すぐに。



高田「翔と申します」

雪「貴方は」

高田「この先は私めが貴女さまのお傍におりますゆえ、なんなりとお申し付け下さい」

雪「敬語はやめにしましょう、フッ」

高田「‥‥っ」

雪「私は役目を終え今は、ただの町娘です」

高田「はい、ニコッ」

雪「んふふっ」



翔の手引きにより、城を抜け出した事を知ったのは。



藤「本当か?それ」



7日ほど経ってからのことだった。



北「雪、お前」

京本「如何いたしましょう」

安井「聞くところによると翔は渉さまの元からも去り行方知れずだと」

藤「母上はこの事をご存知だったのですか」

奥「いいえ、まさか一介の忍びが側室に横恋慕していたとは」

北「んっ?」

奥「しかし、よいではありませんか」

藤「えっ」

奥「貴方は気に病んでいたのでしょ雪を篭の鳥にしていいものかどうかを」

藤「母上」

奥「雪も思うところがありついて行ったのではないかと思います」

藤「それって」

奥「優しい娘でしたからね重荷になりたくはなかったのでしょう、フッ」



俺達が雪にしてあげられること、それは。



殿「ほーれほれ想松、ジジじゃぞ」

奥「殿、そのように顔を擦り付けては想松が嫌がりまする」

殿「何を申す喜んでいるではないか、のう想」



その幸せを願うだけ。



北「翔なら大丈夫だって」

藤「あぁ、フッ」



頼むな俺は信じている、お前も俺達の仲間だから。

時は春、藤の花が咲く季節となっていた。

愛の象徴たる━




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