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愛すると言う事…

第9章 《distrust》


結局…

俺は三日間高熱で魘された。

病院に連れて行かれそうになったのを、何とか拒否してベッドで耐えた。

一度だけニノが来てお粥を作ってくれたけど…

食えるはずもなく、翔さんが平らげた。
ニノは激しく怒り、苦しいながらも俺が宥めると言う、とんでもなく辛い目に遭い。

多分その所為で一日高熱が延びたんだ、絶対。


智「…………ぉはよ」

翔「…大丈夫か?」

智「…ん」

翔「昨日和から預かってきたお粥あるけど、食うか?」

智「………」

翔「食ってくれねぇとまた怒られる(笑)」

智「…………ふはっ(笑)」

何とも情けない顔で笑った翔さん。
思わず吹き出した俺を、ふわっと抱き締めて。

何の抱擁だ?…なんて、思わない。

どれだけ…
何度心配させれば気が済むんだって思うほど、俺はこの人に心配ばかり掛けてる気がする。

背中に手を回して抱き付いて。

胸に頬を寄せる。
温かい翔さんの腕の中。

言葉にするのは、苦手だ。
昔も今も、それは何一つ変わらない。

だけど。

こうして、素直に翔さんの腕の中に収まると、嬉しそうなのは顔を見なくても伝わってくるから。


翔「………智」

智「…………ん?」

翔「……悪いな?」

智「…何」

翔「……健人。……昨日で、辞めた」

智「…………ん」

翔「すまない」

智「…ん」

翔さんはそれでいいのかと聞いたと言う。
だけど健人はこれほど迷惑掛けたからと、辞める意思を曲げなかったらしい。

何度も謝罪を口にして、従業員全員にも…侑李さんにも頭を下げたと聞かされた。

最後に、店を出る間際。

翔さんに深々と頭を下げ、『…智さんにもお伝えください』と言ったそうだ。


潤の時も思ったけど…

人に好意を持たれる事は誰であろうと、嫌な気はしない。
素直に嬉しいと思う。

だけどやっぱり、俺は翔さんが好きだから。

例えこの人が犯罪者だろうと、きっと俺の想いは一生変わらない。


あれから翔さんには、一度も言った事がない。





智「…………愛してる…」





声にならない声。



それでも…



静かな音のないリビングなら…



この人には、聞こえたはず。







                 終

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