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愛すると言う事…

第4章 episode 4


ーーーーー いつもの様に…

マンションを出た。


数日前、翔さんに聞かれてから……いや、その前の"あの人たち"が店に来てからずっと思ってた。

"もう、迷惑はかけられねぇ"

店にまで押し掛けて来たくらいだ。
これ以上翔さんの傍に居たら、"あの人たち"の事で迷惑をかける。

『智♪…ちょっと300くらい用立ててくれない?』

叔母さん夫婦は、金をせびりに来た。

『今は無い』そう言った俺に、叔父さんは後ろのポケットから財布を引ったくった。
俺の財布を開いて舌打ちした叔父さん。

『…何よ、ホストのくせにこれしか無いの?』

『20は入ってるか?…まぁ今日はこれで勘弁しておく。ここに振り込んでおけ』

メモを差し出して来た。

受け取らない俺に、無理矢理握らせると『…500ね!明日までに!』と、叔母さんが言う。

『……300って言ったろ?』

『500よ!ちょっと遠慮してやったんじゃない!』

『…無理だ』

『無理?お前に拒否権があるとでも思ってんのか?』

『"人殺し"のくせに。…あんたのせいで世間様にどれだけ冷たい目で見られたと思ってんの!』

……まただ…

翔さんが、魘される俺に言い聞かせる様に囁いてくれてた『お前は人殺しなんかじゃない』って言葉を、俺は少しずつ受け入れ始めてたのに…

やっぱり俺には、普通に暮らすなんて無理なのかもしれない。


暫く放置してたけど、メールの頻度が増した上に電話まで掛けてくる様になった。

俺はもう限界だった。

通帳の金を確認した翌日、俺はいつもの様に店に行くフリをしてマンションを出た。

ヘルプとして働いてたから、固定客は一人も居ないお陰で突然辞めた所でそれほど迷惑は掛からないだろう。

世話になった事には変わりないから、申し訳ないと思うけど…


電車に乗ったら携帯がポケットの中で震えた。

やっぱり、翔さんで。

何度も何度も、繰り返し震えてる。
魘される度に抱き締めてくれてた翔さん。
優しく頭を撫でてくれた、温かい手を思い出すと思わず通話を押したくなった。

途切れた振動に、淋しさを感じながら意を決して電源を切った。

そうでもしないと本当に泣いてしまいそうだったから。

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