
水曜日の薫りをあなたに
第1章 水曜日、その香りに出逢う
「え、と……はい、構いませんけど」
心の焦りを隠しながら呟くと、破壊力抜群の爽やかな笑みが返された。
「よかった。断られたらどうしようかと思った」
「絶対そんなこと思ってない……」
「思ってるよ」
なぜか嬉しそうに言い返した男は、マティーニを一口飲んでグラスを置くと薫の近くまでスライドさせ、隣の席に座り直した。
ふわり、と、なにかが舞った気がした。香りとは少し違う、なにか。
「薫ちゃん」
すぐそばで聞こえた低音で、またなにかが舞った。
「……は、はい」
「これ、あげるよ。さっき貰ったんだけど、僕には必要ないから」
男が、ラベンダー色の小さな箱をカウンターの上に置いた。
手のひらに収まるほどの大きさのそれには、あきらかに英語ではない文字の列と、まるで母と子が向かい合い手を取り合っているようなシルエットが描かれている。下部に小さく記された“PARIS”という文字でフランスのブランドであることだけはわかるが、いったいなんなのか。
