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水曜日の薫りをあなたに

第1章 水曜日、その香りに出逢う


「中を見て」

 その優しい声と無害な笑みに押されて小箱を手に取り、おそるおそる開けて中身を取り出した。

「これって……」

 箱と同じく綺麗なラベンダー色の液体で満たされた、ミニサイズの丸いボトル。その上部にはシルバーに光る細長い蓋が伸びる。

「香水?」
「そう。美人の香り」
「び、美人……」

 嫌味か、と薫は心の中で呟く。

「定番で万人受けする香りだから、香水が苦手な薫ちゃんでもつけられるんじゃないかな。お試しサイズだし気軽に使えるだろ」
「でも……」

 万人受けするからといって、この鼻が受け入れてくれるとは限らない。定番だろうがなんだろうが、苦手なものは苦手なのだ。

「やっぱり頂くのは申し訳ないので」

 断ろうとボトルをカウンターの上に戻すと、それを取った男はもう片方の手で薫の手を掴み、そこにボトルをそっと乗せた。

「……っ」
「どうせ捨てるつもりだったから、貰って」

 その涼しげな笑みにはどこか有無を言わせない迫力があり、それと同時に、ほんの少しだけ切なさを孕んでいるように見えた。

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