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水曜日の薫りをあなたに

第1章 水曜日、その香りに出逢う


 こみあげてきた嘲笑を口元に浮かべながら、ボトルの蓋を外す。お試しサイズだからか、スプレータイプではなかった。香水をアトマイザーに移さなければならない。当然ながら、薫はそんなものは持っていない。

「なによあの人、不親切なんだから」

 ぶつぶつ悪態をつきながら、ボトルの口に鼻を近づけてみる。すん、と空気を吸い込んだ。

「うっ……ん? 臭くない。なんで」

 軽やかに香るフローラルムスクが上品で、甘すぎず、大人っぽさが漂う。かすかに官能をくすぐられるような、艶めいた薫り。

「なにこれ。……いい匂い」

 あの男の“万人受けする”という言葉は、どうやら間違いではなかったらしい。

――これなら、つけてやってもいいかな。

 心の中でひっそりと呟いて、ボトルをおそるおそる傾ける。香水が一気に溢れてしまわぬよう気をつけながら、ほんの少しだけ、手首の裏に液体を乗せてみる。もう片方の手首と軽くこすり合わせ、もう一度嗅いでみた。

「……ふうん」

 吐息のような声が自分の口から漏れたことに驚き、薫は鏡の中にいる自分を疑いの目で見つめた。唇を薄く開いてこちらを見つめ返すその女は、ひどく淫らに映っている。

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