
水曜日の薫りをあなたに
第1章 水曜日、その香りに出逢う
人を惹きつける力は一種の才能――。美しい微笑をたたえながらカクテルを作る店主を眺め、薫はそう思った。
時にそれは、異性を魅了する強烈な武器になる。そして不思議なことに、世の中にはそのスキルを持っている人間と持っていない人間がいる。
あいにく、薫は後者である。幼い頃から特に目立つタイプではなく、学生時代は可も不可もなく、社会人になっても代わり映えのない生活を送っている。
恋人ができても、互いにぱっとしないまま自然消滅するか、浮気されて終わるのがお決まりだった。本質的に合わなかったであろうことは嗅覚が証明しているし、どうせ長続きしなかっただろう。最近はもう異性と深い関係になるのが面倒で、仕事を理由になるべく避けるようにしている。
この二十七年間、ごく平凡な暮らしをしてきた。そうなるように自分で自分を抑えてきたような気もするが、それこそが自分自身であることを薫はよくわかっている。
