
水曜日の薫りをあなたに
第1章 水曜日、その香りに出逢う
薫は眉間に皺を寄せ、この男とは関わりたくない、と直感的に思った。
その男は、彼女が最も苦手とする風貌をしていた。注目されることに抵抗のない、煌びやかな世界が似合う、おそらく多くのものを思うがままに手に入れることができる人間。
「きみ、そんなに臭い人に出会ったの?」
「は?」
「さっき、今日も臭い人に出くわしたって言ってたから」
「あ、ああ……」
――なんなの。私はお気に入りのバーで一人ひっそりとお酒を愉しみたいだけなのにぃ。
心の中で叫びながらも、この狭い空間で無視を決め込むわけにもいかず、薫は渋々説明することにした。
「あの、別に臭くはないんです。私が香水の匂いに敏感なだけで」
「へえ。敏感なんだね」
敏感、という言葉に深い意味でも込められているかのような色っぽい視線をよこす男。
「で、香水苦手なんだ」
「はい」
「かおるちゃんなのに」
「えっ、どうして私の名前……」
飛び跳ねるかの如く背筋を伸ばした薫を見て、彼はにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「さっきマスターにそう呼ばれてたでしょ」
「ああ……そっか」
急に気が抜けて素直に納得すると、また意味ありげに笑われた。
