
水曜日の薫りをあなたに
第1章 水曜日、その香りに出逢う
「お待たせしました。カルーソーです」
カウンターの向こうから聞こえた上品な低音に視線を移すと、店主の優しい笑顔とともに、澄んだミントグリーンに満たされたカクテルグラスがすっと目の前に差し出された。
「ありがとうございます。やっぱり綺麗……」
透き通る緑色の美しさに思わずため息が漏れる。うっとりしながら、薫はグラスを傾け唇をつけた。
一口飲んだとき、不意に、「透明」と呟く声がした。隣に訝しげな目を向ければ、声の主は肩をすくめる。
「透明って……どう見ても緑ですけど」
「カルーソーのカクテル言葉だよ。きみの清らかなイメージにぴったりだね」
「はあ。いつもそうやって女を口説くんですか」
失笑まじりに尋ねてみるが、「まさか」と笑いながら一蹴されてしまった。目尻に皺を作るくしゃりとした笑顔がやけに可愛らしくて、不覚にもドキッとさせられる。
「しかし結構辛口なのが好きなんだね。それはちょっと意外だな」
「ドライな飲み口とミントの清涼感で爽やかな気分になれるんです」
「お、いいね。同感」
男はカウンターに片肘をつき、薫のほうに身を乗り出す。二人の間にある空席を埋めようとでも言いたげに。
