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雪に咲く花

第31章 ポーカーフェイスの心

用をたしてから戻ろうとすると、誰かに腕を掴まれた。
「君、可愛いね。一緒に飲もうよ」
酔っ払いの中年男性が、絡んできたのだ。
「結構です。会社の集まりだから戻らないといけないんで」
きっぱりと言い、掴まれた腕を振りほどいたが、今度は首に腕を巻き付けられた。
酒臭い息を吐きかけられ、気持ちが悪い。
「そんな、つれないこと言わないでさ。こっちおいでよ」
腕の力が、ますます強くなり、頬や尻を撫でまくられる。
「いやぁっ!……」
心の奥に眠っていた、苦い恐怖が呼び戻され、思わず、腕に噛みついてしまった。
「いてぇっ!何をするんだ。このガキッ!……」
男性が、腕を離して拳を挙げたとき、誰かが彼の腕を掴んだ。
「乱暴はやめて下さい。いったい、この子が何をしたんですか?」
黒崎だったのだ。
「こいつが急に噛みついたんだよ。ちょっと、からかっただけなのによ」
呂律のはっきり回らない口調で、男性が怒りをぶつける。
「やだっ!……もうやめて……」
黒崎が雪斗の方をみると、肩を激しく震わせ、助けを求めているようである。
その様子を見て、何かを考えてから、黒崎が男性の方に向きなおった。

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