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雪に咲く花

第38章 亘の空白

それなのに、亘の姿は雪斗の心から出ていってはくれないのだ。
初めて出会ったとき、浴衣姿で悪徳なモデル事務所から逃げ出した自分を救ってくれた事、
いじめで傷ついた自分を抱きしめてくれた事、
レイプされた後、亘にさえ触られることに恐怖を感じたとき、星に願いをのメロディーを流しながら幸せだった思い出を語ってくれた事、
肌を重ね合わせたことで絆がより深まった事、
ひとつひとつの思い出が深すぎて、彼のことを簡単に忘れることなど出来るはずがない。
かといって亘を思い続けることも、残酷な言葉が頭に残り辛すぎる。
「こんなに苦しいなら俺も亘の記憶なんか消したいよ」
瞳から涙が溢れ出す。
今の傷ついた心に、幸せだった頃の思い出は悲しすぎるのだ。
「亘……どうして?……あの時の亘はどこ行っちゃったんだよ?」
思わず、泣きじゃくっていた。
「会いたいよ……亘……帰ってきてくれよぉ!……」
自分を包んでくれた亘はもう戻ることなく、原作の人魚姫のように、このまま絆が泡となって消えてしまうのだろうか?
涙が枯れるくらい泣きつくしても、雪斗の悲しみが消えることはなかったのだ。

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