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ながれぼし

第8章 in the water

*松本*




ごぼっ!



一瞬だった。

足に激痛が走ったと思った途端。
俺の顔は、水の中に呑み込まれた。


ごぼっ!ごぼ…バシャッ!

「っ…っば、はぁ!!!…たす…」

助けて。と言う言葉は広い広い海の中に消えていく。

誰か…!!

酸素を欲して口を開けば、口の中に入ってきたのは塩辛い水。

喉が痛い

目が開けられない



苦しい!


怖い…!



怖い…



上はどっち…


…こわい……


おれ…しぬ…の…


だれか…


たす…け…


っつ……


消えそうになる意識の中で、右腕に感じた痛み。

そして、ぐっ!ともの凄い力で引っ張られる。


…な、に…?

固く閉じた瞼越しに、キラっ。と光が見えた。


バシャンっ!!!

「……ぶはぁっっ!!!
ぅ……ごほっ!ごほっっ!!」

苦しい…!息が吸えない!

「暴れんな!!落ち着け!」

耳元で聴こえた、大きな声。
けど、俺の体なのに言うことをきかない。怖い…!

「助けて…!!息が…!」
吸えないっ…!


「大丈夫!絶対助けてやるから!」

また大きな声。

「はぁ…助けて!…怖い…!!」


「大丈夫!もう大丈夫。」

それが少しだけ穏やかな口調に変わる。

「っ、…はぁ…はぁ…はぁ」

脳に酸素がいき、訳がわからなくなっていた頭が…少しだけ回復してくる。

ゆっくりと固く閉じていた瞼を開ければ、目の前には男の人…と言うよりは男の子。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

テレビで観た。溺れた時は暴れちゃ駄目だって。助けに来てくれた人まで溺れさすって。

だから…怖かったけど…必死で暴れそうになる体を抑えて、目の前の男の子に体を任せた。

「はぁ…うん。そう上手。はぁ…はぁ…後は俺に任せろ。絶対助けてやるから…な。」

苦しそうな声。

でも、俺の腕を掴む手は痛いくらいに強くて、
それがすごく心強くて、涙が出た。





これは、俺が中学生の時の出来事だ。

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