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ながれぼし

第8章 in the water



目の前のきょとん顔の大野くん。

そりゃね。
急に話を跳ばしたからね。


「入らないの?」

大「?」

「水泳部。」

大「……あぁ…」
そう言うこと。と俺の言っている事を理解したのか大野くんが困ったように笑う。


大野くんが、困っている
けど…切り出してしまったこの話を、このまま「やっぱり、なんでもない。」と終わりにしてしまうと、2度と聞く機会はないんじゃないかなって思ったんだ。


「俺、大野くんの事調べた。」

大「? 調べた??」

「うん。過去の…大会記録、とか。」

大「あ、……あー…」

「大野くんは凄い選手だって、ニノも雅紀も言ってたから…俺気になって…勝手にごめん。」

大「ううん。謝ることじゃないけど…
……俺はもう水泳を辞めた人だから。ほら、体もこの通りひょろひょろ~(笑)」
そう言って、あははと笑って空いている手でペシペシと華奢な胸元を叩いた。



…ほら…まただ。
なんでそんな顔…するんだよ。


「本当は…やりたいんじゃないの?」


大「え?………ふふ。俺の意思で辞めたんだよ?」

…じゃぁ

じゃぁなんで…

「それならなんでっ、なんでそんな未練がましそうな顔すんだよ!試験だってそうだ!水泳も勉強も、無理矢理目を反らしてる様に俺には見える!」

大野くんの瞳が驚いた様に開く。

「俺…大野くんの泳ぎが見たいよ。
俺!大野くんと泳ぎたいっ!」

大「…………松本くん…」


もし勉強も水泳も、大野くんが…本当はやりたいと思っているなら、戻りたいと思っているなら…今度は俺が、大野くんの力になれれば、なれたらって…


「…」
大「……」

沈黙。

破ったのは

大「…はぁ…」

溜め息。



……

…あ、俺…

大野くんの溜め息に、勝手にヒートアップしていた頭が冷えていく…

俺…大野くんの為に何かできたらって、力になれたらって…
でもこれは…俺の勝手な思いで

大野くんが辞めた理由すら聞かずに…なんて自分勝手な…


大「松本くん。」


「、」

名前を呼ばれて、下がっていた視線を慌てて戻せば、すぐそこに綺麗な瞳があって…


…あ……

大「松本くんにね、お願いがあるんだ。」

そう言って にこ。と笑った大野くん顔は…今にも壊れそうなほど儚くて…でもとても綺麗で


思わず みとれた。

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