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ながれぼし

第2章 over the 妄想

*櫻井*




明かりの付いていない部屋


カーテンの隙間から差し込む月明かりのみが


その部屋に凹凸があることを教えてくれる


定位置の決まった家具や家電


床にある定位置ではない影


聴こえるのは


すん。と鼻を啜る音



…またか。



スイッチに手をかけ
なんの迷いもなく明かりを付けた。


パッ。とすぐに明るくなるリビング


便利な世の中だ。


ビクッと肩を震わす床の影…いや智くん。


「ただいま」


大「あ…翔くん…おかえり」

その綺麗な顔には、涙を流したあと。

ボスっと、重たいカバンをソファに置き
会社帰りに1度緩めたネクタイを更に緩めた。


そんな俺の行動を、その涙で揺れる瞳で追う貴方

その手には、濡れてくしゃくしゃになった写真


あーぁその写真、気に入ってたのに…
ま、また印刷すればいいか。

便利な世の中だ。


よっと、腰を下ろしたのはソファ。ではなく貴方の隣のラグの上。



「で?」


大「で?」
いまだに鼻を啜りながら、きょとん。とする。


「なんで泣いてんの?」


大「……きいてくれるの?」


「きいて欲しいんでしょ?」
どうぞ。と意味を込めて智くんへ体を向ける。


大「…ありがとう。」
そう答え、そして2人が笑顔で写っている、くしゃくしゃの写真に視線を落とした。


部屋の明かりが、睫毛に当たり瞳に影を落とす。


そんな仕草でさえ、思わず息を飲む。


そして

大「俺ね…」

と、視線を落としたまま話を始めた。

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