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ギムレット

第20章 スプリッツァー  真実(シュウ編)


祖父は寡黙な人だったが、優しく穏やかな人だった。

祖父と暮らした家は、6畳の部屋が二間と3畳程度の台所があり、風呂とトイレ、軽自動車が1台置けるか置けないか程度の小さな庭がある平間の貸家だった。


祖父は庭師として雇われて働いていた。決して暮らしは裕福ではなかったが、貧しくても俺は何の不満も抱くことはなかった。


祖父は俺の面倒をイヤな顔一つせずに見てくれた。
寡黙で酒もたばこも飲まず、友人も少なく、近所付き合いも少なかったが、それもきっと俺を育てるために精一杯だったからなのだと…。

祖母は俺が生まれる前に亡くなっていたと祖父から聞いていた。

俺が大人になった今だからこそ分かる。

子供を育てるために働き、学校に行かせて、飯を作り食わせて、風呂に入れて寝かせる。単調な生活かもしれないが、祖父の年齢で子供を育てることがどれだけ大変だったか…


俺は幸せだった。祖父との生活に不満も不安も何も持たずに毎日を生きていた。



両親がいない悲しみなんて一度も感じたこともなかった。

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