ギムレット
第5章 モヒート 心の渇きをいやして
タクと抱き合った日から数週間が経った。
「また連絡して」
「ええ」
短いメールのやり取りをした後、私たちはお互いに一度もメールを送らなかった。
同じビルの3階と5階で働いているのに、ビルのエレベーターで会うこともなく時間だけが過ぎていた。
私は基本的に客以外には自分から連絡をしない。
出勤のためにビルのエレベーターに乗り込み3階のボタンを押すと、閉まりかかるドアに体を割ってタクが乗り込んできた。
あの日以来に会うタクは、少し不貞腐れたような顔をして、私に視線を合わせなかった。
タクは無言でエレベーターの5階のボタンを押す。
その時、ビルの入り口前に止まっていたタクシーから降りてきた3人組がタクに向かって叫ぶ。タクと同じ店で働くおかまちゃんの3人組だった。
「たっくーん、私たちも乗るから待ってて~~」
エレベーターの方向に駆け寄ってきた3人を見ると、タクはcloseのボタンを連打する。
「ちょっ……たっくーんっ!!!ひど……」
エレベーター目前で3人組を残してドアは閉まりエレベーターが動き出した。
「酷いことするのね」
私がクスッと笑ってそう言うと、タクは私が押していた3階のボタンも解除してから、私に向き合って、エレベーターの壁に私を押し付けた。
「酷いのはどっちだよ。何日も俺を……無視して」
そう言うと、いきなりキスをした。