ギムレット
第5章 モヒート 心の渇きをいやして
これは恋の駆け引き。
私以外の誰かも ” 抱くよ ” そう宣言した男との駆け引き。
「メグ、愛してる」
タクは私に触れるとき、いつも”愛してる”と囁く。
心が渇いた人間に愛を語ることは、砂漠に湖を与えるのと同じくらい、心を満たし潤してくれる。
だから人は、愛を要求し合うのかもしれない。
愛という言葉は、時に人を惑わす魔法の言葉なのだから……
私は今、この男と、愛とは違った欲望に溺れたい。
人は心寂しい何かを埋めるために体を求めあうこともある。
欲望のままに激しく相手を求めあった関係だったとしても、人の体温を感じて抱きしめられると、それを愛だと、心の中で置き換えてしまう人もいる。
「俺って……嫉妬深い」
でも、私とタクは、肉体だけで繋がった関係。
彼の嫉妬の対象は、私の全てにではなく
他の男が触れるかもしれない肉体……だけ。
そう思わなければ……
だから私は、心まで奪われて溺れては……いけない。
「これ」
タクは私の右手の中に、冷たくひんやりしたものを握らせた。
私の掌の中にある冷たい感触。
それは、少しづつ心まで奪って溺れさせていく鉄の塊。
「家の……合鍵」
こんな些細なことが、私の心をも奪っていくように……
タクは私の心に侵食してくる。
この男の心が…… 読めない。