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ギムレット

第6章 ベルモント やさしい慰め

テーブルにヘルプの女の子が着いた。

中高年の客の多いこの店で、シュウのような20代の男性が訪れることは滅多にない。



「めちゃくちゃイケメンさんじゃないですかぁ~」


「えっ?本当に? でも、この店の中では。ってことでしょ?」



彼の会話は、いつも屈託なく楽しい。



「今回出張で行った取引先で、食事を接待してくれたの。でも行った店がゲテモノ屋でさぁ~」


「えっ?えっ? ゲテモノってなんですか?」


「昆虫」


「ええええええ……」


ヘルプでついてくれている女の子の叫び声が店内に響き渡る。



「シュウは食べたの?」私の問いに


「食うよ。無下には出来ないし、向こうも俺の根性試してるんだろうし。胴体を噛むとグチュって潰れるんだけど、本当に焼けてんの?って感じだったり、意外と硬くて噛み切れなかったり、虫の脚が歯に挟まったりしてさあ~。でも全部食ったよ」



「やだやだやだやだ……」


ヘルプでついてくれている女の子の叫び声が再び店内に響き渡る。



シュウの海外体験記は、ずっと聞いていたいほど楽しい。



向井さん、すみません。とマネージャーがシュウに断りを入れて、私に他の指名客のテーブルに戻るように促される。



「シュウ、ごめんね」


「いいよ、気にしなくて」



席を立とうとした私に、ちょっとちょっと、という手ぶりをしたので、私はシュウに耳を貸した。


「今日、いつもの居酒屋で待ってていい?」


「時差ボケなのに、大丈夫なの?」




先ほどと同じ色香を感じさせる顔でシュウが囁く。


「今発見した。俺って、時差ボケの方が積極的になれるかも」

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