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ギムレット

第2章 オーロラ  偶然の出会い

「いらっしゃいませ、三田村さん」

私を指名する客は、比較的少人数で来店する客が多い。

一人の客もいれば、4人程で利用してくれる客もいる。

物静かにアルコールに酔いしれて夜を過ごしたい客が多い。そして私も、そういう客を好んだ。


この三田村も私にとっては上客で、この店に入った直後に特定の指名ホステスがいなかったのかヘルプで席に着いたのをきっかけに指名をもらうようになった。月に4回は最低でもお店に通い、月に20~30万以上の支払いをキャッシュで払っていく。


三田村は、他の指名客の接客で、私がなかなか席に着けなかったことに珍しく立腹して、ヘルプで着いてくれていたホステスに冷たく接していた。


私は40後半で子供のようにイジける中年男をなだめながら


「今日、アフターで、ゆっくり飲みに行きましょう」


三田村の耳元でそう囁くと、三田村の機嫌は一気に回復して上機嫌になっていった。


ホステスをしていると感じることがある。

男は矛盾している。

この店に通い私を指名しても、指名客が多く、なかなか自分の席に着いてもらえない時は、今の三田村のように拗ねた態度をとるくせに、指名が少ないヘルプ巡りをしている私では決して満足できない。


彼らはこの店で働くナンバー2である” 私 ”が好きなのだ。


他の指名客である男たちと競って、その中で自分が特別な男に選ばれることに優越感を覚えるのだろう。


今日は私の指名客が少し重なった日だった。

クラブの閉店時間は23時30分。


私は時間通りに上がれそうもなかったので、三田村に「源氏」という朝方4時~5時頃まで営業している居酒屋風なカウンターバーに先に行っていてもらうことにした。


源氏はオカマの振り(実はノンケ)をしたマスターが一人で経営している。


小さな店だが、食材に気を使った新鮮な料理も美味しく、マスターとの会話も楽しい店で、私は一人でも立ち寄ることも多かった。


三田村もよく知っている店だ。


朝方まで営業していることもあり、店をはけた同業者が立ち寄ることも多かった。


私は最後の客を見送ると、化粧を直し、順子ママや店長、雑談している他のホステスやスタッフに軽く挨拶してから店を出て、三田村の待つ源氏に向かった。


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