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ギムレット

第2章 オーロラ  偶然の出会い

アフターの付き合いは気を遣う。あわよくば、の思いが強い危険な客とは二人きりでは付き合わない。

三田村のように下心はあっても理性を保ち、なおかつ同業者の知り合いに出会う確率の高い店は二人きりで会ったとしても安心できる。


店を出て源氏までは徒歩で7~8分程度。華やかなネオン街の裏路地を抜けるとマンションが立ち並ぶ中にその店はひっそりとある。

源氏のドアをあけると、三田村がマスターや他の客と既に会話を楽しんでいた。


「おっ!やっと来たか」


三田村が私の姿を見て嬉しそうに言うと、三田村の横で一緒に飲んでいた若い男が私の方にチラッと顔を向けた。


「おまたせ。マスター、こんばんは」


私はそう言うと三田村の席の空いている右隣りに座った。


「メグっ!!!今日も綺麗でぶっ殺したくなるわねっ!」


店内の客が一斉に笑う。おかまの振りをしたマスターは、いつもこんな冗談を言う。


「タクもそう思ってるんでしょっ!いい女が来るとイラつくわっ!」


三田村の左隣に座って水割りの焼酎を飲んで、軽く頬を染めて酔っているように見える若い男の名前はタク。

マスターの言葉にタクは頷くように同意した。


三田村は綺麗と褒められる私が自慢のようで、まるで自分の所有物の女が褒められているかのように上機嫌になった。



「お前も知ってるだろ?」



三田村にタクを紹介されて、私は「上の、ブルーラグーンの?」と彼に問いかけた。


彼は軽く会釈するように私に挨拶した。


タクとは時々、店のエレベーターで一緒になり挨拶したことがある。カサブランカはビルの3階。ブルーラグーンは5階だった。この源氏でも何度か会っていた。ただ二人で会話をすることはなく、いつもカウンターの端と端にお互い一人で座っていたり、他の賑やかな同業者やマスターを交えて談笑する程度だった。


私が源氏に来てから、しばらくすると店は混雑してきた。タクはマスターを手伝ってお酒を作って出したり、出来上がったつまみの皿を配ったりしていた。


「タク、せっかくのお休みなのに手伝わせちゃって悪いわね~」


別にいいよ。という手ぶりをして、テキパキとマスターの手伝いをして、その手伝いが一段落した頃に、三田村がトイレに行くために席を立った。

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