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ギムレット

第2章 オーロラ  偶然の出会い


「時々……会うよ…ね」

視線は私の方に向けずに、焼酎の水割りグラスを口元に添えたまま、彼の頬が少し赤らんでいるのは酔ったせいなのだろうか?ちょっと照れくさそうに私に話しかけているように見えた。


タクは私の働くクラブ「カサブランカ」と同じビルの5階のパブ「ブルーラグーン」で働いている。

ゲイ、おかまちゃん、ノンケの美青年のスタッフで固められて、ゲイの人たちはもちろんのこと、若い女性や中年男性、そして風俗やスナックなどの夜の世界で働く女性たちが仕事帰りにこぞって通う。

スタッフは全て男性ばかり常に10人ほどだが、カウンターとテーブル席10席ほどのスペースでカラオケのステージもあり、ホストクラブとは違い低料金で楽しめると人気の店。

店長は40代前半の背が高く清潔そうで魅惑的なカミングアウト済みのゲイの高瀬という男だ。

風俗営業ではないため密着した接客はなく指名制度はないが、ナンバー1人気は高瀬店長であり、タクはその店のバーテンダーでナンバー2人気だと噂で聞いていた。

ちなみに店名の「ブルーラグーン」はカクテルの名前が由来らしい。

ウォッカにブルーキュラソー、レモンジュースをシェイクする。フルート型のシャンパングラスに注ぎ、レモンスライスやチェリーを飾る。

1960年にパリのハリーズバーで生まれたカクテルだそうだ。

ブルーラグーンはアイスランドにある温泉施設の名前。または「青い珊瑚礁」という映画の原題の方が有名かもしれない。


ベースとなるウォッカは無味無臭といっても過言ではなく味に特徴はない。故にカクテルのベース材料として多く使われている。いわば多くのカクテルの主役でありながら、まるでそのほかの材料の引き立て役に徹する。

カクテル「ブルーラグーン」は、レモンのさっぱりとした酸味を感じ、その後にブルーキュラソーの甘みを感じ、そして最後にウォッカの強いアルコールを感じる。

まるでこの店のように、気軽に来店し、その甘い魅惑に酔いしれて、いつしかその魅惑に強く憑りつかれる。

この店のオーナーはもしかしたらそんな意味も込めてこの店の名前を「ブルーラグーン」に決めたのだろうか。


そしてブルーラグーンのカクテル言葉は『誠実な愛』だ。


だが、この店の経営者は、その筋の人。という噂だった。

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