風鈴が鳴らない時
第1章 色は
僕は誰から買うかって事も割りと気になる方で、あまり喋り掛けるのが怖そうな人だと買わないことがある。
でも、この眼鏡の売り主さんはオサレさんだから、是非とも買いたいのです!早く手放して下さい!
なんて僕の願いに気付くわけもないこの人は、どうして迷っているのか話し出して…どんどん別の話になって、全く関係ない話で盛り上がっている。
僕が横の店ばかり見てるから、目の前の売り主さんは怪訝な顔をし初めてしまった。冷やかしである事は明確なので、ペコリと頭を下げて反対隣の店にやって来た。
さっきまで居た店は小物雑貨や食器が有って、眼鏡が有る店はマンガやフィギュアが有って、今僕が居る店は骨董品や置物が有る。ジャンルで言うと最も立ち寄らない所だけど、眼鏡を握って放さない先客を見張るには後ろより横の方が良いよなぁ…。
もぅ諦めて別の店に行こう…。
そう思った途端パラパラと雨が振りだした。骨董屋さんのおじさんはサッサと商品にビニールを被せて、手前から片付け出した。
いつの間にか僕の手に握られていた小さな桐箱をおじさんに差し出して…。
「すみません僕…コレ買いません…けど」
「はてぇ?ウチのじゃないがなぁ…?」
「え!?」
僕は小さな桐箱を持ったまま、回りの店の売り主さんに話しかけようと右往左往した。でも皆、雨から商品を守ることに必死で生返事しかしてくれない。そうこうしている内に眼鏡を売っていた店の売り主さんは、すっかり商品を片付け終わっていた。
「あぁ~あ…」
その直後、ゲリラ豪雨でフリーマーケットどころでは無くなった。