
風鈴が鳴らない時
第3章 散りぬる
「いらっしゃいませ」
後ろから微かに声がして、振り向いたけど誰もいない。
いらっしゃいませって事は…お店屋さんなの?
立ち上がって良く見たら、色んな物が所狭しと並べられていた。驚いた事に1階の屋根の上の看板に自転車がくくられている。
あれ下さいって言われたら下ろすの大変だろうなぁ…。すぐ横の2階の窓から身を乗り出して…。
自転車を下ろすシミュレーションをしていると、風鈴の化身のおじいちゃんの髭をスッキリ減らした感じのおじいちゃんがユックリ出て来た。
どうやってあんな所に固定したんだろう?こんなにユックリ動くおじいちゃんが…?
僕はおじいちゃんにペコリと頭を下げて、もう一度自転車と看板を見上げた。看板には『雅楽蛇』と書いてある。
「まさらく…へび?」
「がらくたっと読むのですよ」
おじいちゃんは、孫を見るような優しい笑顔でそう言った。
がらくた…。
僕はハッとして、あの小さな桐箱をリュックから取り出した。それを見ておじいちゃんは目の色を変えた。
「ほぅ!コレを持って自分の足で店まで出向いてくる人間を初めて見ました」
おじいちゃんは、相当驚いたらしく2歩だけ機敏に僕に近付いてきた。
