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じゃん・けん・ぽん!!

第6章 再戦!

 対戦前に体をわざとこわばらせ、そしてチョキを出した。なのに――。
 ――負けた。
「また私の勝ちだ」
 あはは、と裕子は笑った。桃色の唇の間から、綺麗に整った前歯が覗く。焦げ茶色に日焼けした肌に、その歯の白さが際立って見えた。
「偶然ですよね。もう一回やったら絶対に――」
「偶然じゃないよ」
 裕子は健人の言葉を遮った。顔から笑みが消え、真剣な表情が宿る。唇は一文字に締まり、長い睫毛に縁取られた二重の目からは、真っ直ぐな視線が健人に向けられている。健人の方が背が高いから自然と裕子は上目遣いになるが、それなのに、その視線には健人を圧倒する威厳のようなものがあった。
「偶然じゃ――ないんですか」
「違うよ。私は、あなたがチョキを出すってわかったの」
「な、なんでですか」
「だって、あなたは体をこわばらせていたでしょ」
「ええ」
 その通りだ。こっちがグーを出すと〝読ませる〟ために、わざと体をこわばらせたのだ。それを健人が白状すると、そうだと思ったよと裕子は言って、一瞬だけ肩をそびやかせてみせた。
「なら、なんで俺がチョキを出すって分かったんですか」
「矛盾があるからだよ」
「矛盾?­」
「そう。矛盾」
「どんな、矛盾ですか」
「だって、自分から私にじゃんけんを吹っかけておいて、それで緊張しているなんておかしいでしょ。挑んできたならやる気満々なはずなのに」
「じゃあ、俺が体を固くしていたことについては、どんなふうに」
「演技なのかなって思ったよ。それに、甘星堂では二回も私に負けてるでしょ。それでなんの反省もなしにまたじゃんけんを挑んでくるからには何かあるって思ったの。それだけ」
 完敗だった。
 つまり裕子は、健人が〝読ませる〟ことを読んでいた、ということだ。裏の裏をかかれた――健人はそう感じた。そして同時に、熱くなった。今までは、たかがじゃんけんだと思っていたが、今は違う。まるで甲子園を目指して奮闘する球児のような闘志が心の中に燃え始めていた。
「あはは」
 また裕子が笑った。
「どうしたの、すごい顔してるよ」
 言われて、健人はハッとした。心に燃えた闘志が、どうやら顔にも出ていたらしい。

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