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じゃん・けん・ぽん!!

第13章 会長のヒ・ミ・ツ

「でも会長、その手紙なんですけど」
「なに」
「もしかして、まだお父さんに渡してないんじゃないですか」
 裕子の瞳が、わずかに大きくなった。
「なんで、分かったの」
 晃仁の予想した通りの返事だった。
「だって、もし手紙をお父さんに渡していたとしたら、すでにしこりはなくなっているはずですから」
 さっきの熱弁の様子は、あきらかに溜め込んだ感情が爆発したものだった。もし、しこりがなくなっていたら、あそこまで捲し立てはしなかっただろう。晃仁がそう言うと、適わないなあと裕子は呟いた。
「確かに手紙は渡してないよ。でも、それは〝まだ〟じゃないの。〝もう〟なの。いったん手紙は書いたけど、書いているうちに、なんで私が謝らなくちゃけないのかって考えが湧いてきて、怒りがぶり返してきて、それでやっぱり渡さないでおこうと思ったの」
「そうだったんですか」
 そこで晃仁は、ふと、あることに思い至った。
「あの、会長」
「ん?­」
 裕子は晃仁の珈琲を勝手に飲んでいる。
「その手紙、今どこにありますか」
 晃仁がそう問いかけた途端、珈琲を飲んでいた裕子は急に噎せだした。器を机の上に置き、胸を抑えながら何度も咳き込む。
「大丈夫ですか」
 思わず背中をさする。
「大丈夫、大丈夫」
 裕子は苦しそうな声でそう言うと、もう二、三回咳き込んでから、ようやく落ち着きを取り戻した。
「なんか、もう隠しても仕方ない感じだよね」
 裕子は、まるで憑き物が落ちたかのような爽やかな笑みを浮かべながらそう言った。
「うん、たぶん晃仁くんには分かってると思うけど、その手紙は――」
 下駄箱の裏にあるよ――と裕子は言った。
「え!」
 声をあげたのは、学だった。今まで黙っていたので、晃仁は少しびっくりした。おそらく学としても、声を出すつもりはなかったのだろう。でも、びっくりして思わず声を出してしまった、と言ったところか。そして声を出してしまった手前、引っ込むのも味が悪いと思ったのだろう。さっきまでは裕子と視線を合わせようとさえしなかったのに、学はいきなり裕子に向かって直接訊ねた。
「もしかして、俺がノートを借りた時に、下駄箱に張り付いていたのは――」

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