じゃん・けん・ぽん!!
第13章 会長のヒ・ミ・ツ
うん、と裕子は頷いた。
「そう、お父さんに書いた手紙を取ろうとしていたの。ノートから破って丸めようとしたら、なんか落としちゃって、下駄箱の裏側に入っちゃったわけ」
ようやく晃仁にも理解できた。裕子が、下駄箱の交換に頑なに反対する、その理由が。
つまり、下駄箱を交換する際に、その裏側へ滑り込んでしまった手紙を人に見られたくなかったのだろう。だが――、
――待てよ。
もし下駄箱を交換することになったとしても、その作業は登校日には行われないのではないか。大掛かりな作業になるはずから、もし交換をするなら、土日を使うか、もしくは夏休みなどに行うだろう。つまり、手紙が発見されたとしても、そこには生徒はいないと考えられる。塵芥があれば、業者がついでに始末してしまうに違いない。とすれば、裕子は〝誰に〟手紙を見られることを恐れているのだろうか。
「また町田家具だ」
裕子が、不意にそう言った。その声で、晃仁は思考の深みから浮上した。
「町田家具?」
時計を見ると、六時だった。店の前の道を、大きな運搬車が耳障りな音を立てて過ぎていった。その車の荷台には、確かに町田家具の名前が塗られていた。
「そうかッ」
晃仁は、思わず声を出していた。突然だったせいか、学と裕子がびくりと体を震わせた。
「どうしたんだよ」
と学が訊いてくる。それへ答えるかわりに、晃仁は裕子に対して逆に質問をした。
「会長のお父さんって、なんの仕事をされているんですか」
「え」
急に声をあげた上に脈絡のない質問をされたせいか、裕子は一瞬だけ、怪訝そうに鼻の頭へ皺を寄せた。しかし、直後には、
「町田家具の社長だけど」
と素直に答えた。
「まあ、社長って言っても、ほとんど親戚と幼馴染だけが働いているような小さい会社なんだけどね」
それに対して、学が質問をはさむ。
「じゃあ、〝町田〟ってなんだよ」
「お父さんの旧姓」
なるほどと晃仁も思ったが、それは関係ない。会社の名前も、そして規模も、問題ではない。
あの車の音が、町田家具の社用車だと、なぜ裕子は分かったのか――それが問題だ。
「そう、お父さんに書いた手紙を取ろうとしていたの。ノートから破って丸めようとしたら、なんか落としちゃって、下駄箱の裏側に入っちゃったわけ」
ようやく晃仁にも理解できた。裕子が、下駄箱の交換に頑なに反対する、その理由が。
つまり、下駄箱を交換する際に、その裏側へ滑り込んでしまった手紙を人に見られたくなかったのだろう。だが――、
――待てよ。
もし下駄箱を交換することになったとしても、その作業は登校日には行われないのではないか。大掛かりな作業になるはずから、もし交換をするなら、土日を使うか、もしくは夏休みなどに行うだろう。つまり、手紙が発見されたとしても、そこには生徒はいないと考えられる。塵芥があれば、業者がついでに始末してしまうに違いない。とすれば、裕子は〝誰に〟手紙を見られることを恐れているのだろうか。
「また町田家具だ」
裕子が、不意にそう言った。その声で、晃仁は思考の深みから浮上した。
「町田家具?」
時計を見ると、六時だった。店の前の道を、大きな運搬車が耳障りな音を立てて過ぎていった。その車の荷台には、確かに町田家具の名前が塗られていた。
「そうかッ」
晃仁は、思わず声を出していた。突然だったせいか、学と裕子がびくりと体を震わせた。
「どうしたんだよ」
と学が訊いてくる。それへ答えるかわりに、晃仁は裕子に対して逆に質問をした。
「会長のお父さんって、なんの仕事をされているんですか」
「え」
急に声をあげた上に脈絡のない質問をされたせいか、裕子は一瞬だけ、怪訝そうに鼻の頭へ皺を寄せた。しかし、直後には、
「町田家具の社長だけど」
と素直に答えた。
「まあ、社長って言っても、ほとんど親戚と幼馴染だけが働いているような小さい会社なんだけどね」
それに対して、学が質問をはさむ。
「じゃあ、〝町田〟ってなんだよ」
「お父さんの旧姓」
なるほどと晃仁も思ったが、それは関係ない。会社の名前も、そして規模も、問題ではない。
あの車の音が、町田家具の社用車だと、なぜ裕子は分かったのか――それが問題だ。