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じゃん・けん・ぽん!!

第13章 会長のヒ・ミ・ツ

 祐子は、生徒以外の〝誰〟に、手紙を見られることを恐れていたのか。
「あの、会長。町田家具では、どんなものを扱ってますか」
「なに」
 変なことを訊くね――と祐子はちょっと笑った。
「どんなものって、家具だから、机とか椅子とか箪笥とか、そんなもんだよ」
「じゃ下駄箱はどうですか」
「うん」
 扱ってるよ――と祐子は答えた。
 それで分かった。祐子が、〝誰〟に手紙を見られたくないと思っているのか。それは――。
「会長、どうしてさっきの車の音が、町田家具の車のものだって分かったんですか」
「え、だって、あんな大きな音、普通の車じゃないでしょ。こんな田舎町で、あんな大きな音がするなら、お父さんの会社の車くらいしかないもん」
「それは――」
 違うんですよ――と晃仁は言った。
「実は僕も大型車の音が耳について仕方がなかったんです。だから、その車が毎日同じ時刻に通ることが分かるまでになってしまったんです」
 午前九時と、十一時と、午後六時――それが、あの耳障りな駆動音を立てる車の走る時間だ。友人の健人からは、

 なんでそこまで詳しいんだよ――。

 そう言って呆れられたほどだ。でも――。
「でも、僕が気にしている車の音は、町田家具のものじゃないんです。近くに工場ができるらしくて、その材料を運ぶ車の音なんです」
「へえ」
 と祐子は興味なさげに相槌を打つと、ついに珈琲を飲み終えてしまった。本当は晃仁のものなのに・・・・・・。しかし晃仁は構わずに続けた。
「会長、前にもあの車の音を町田家具のものだと分かったことがありましたよね。学校の図書室で」
「ああ」
 祐子は視線をあげて、思い出すような仕草を見せてから、そうだね――と答えた。

 うるさいなあ、町田家具――。

 祐子が、はじめに車の音を町田家具のものだと看破した時、そう叫んでいた。
「あの時は私も参っていたからねえ」
 と祐子はぼやく。

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