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じゃん・けん・ぽん!!

第13章 会長のヒ・ミ・ツ

 さらに想像する。
 では、誰の意志なのか。
 きっと男ではないだろう。もし男が、誰かをここへ誘うのだとすれば、まず学を選ぶことはないだろう。差別的な考え方かもしれないが、どうせこういう店に来るならば、できればかわいい女の子と来たいと、多くの男は思うはずだ。
 とすれば、学を誘ったのは、女ということになる。しかし、学はどうやら祐子を気にしていたように思える。とくに証拠のようなものがあるわけではないが、雰囲気からなんとなくそれは感じ取れる。それは、きっと晃仁でなくても感じ取れたことだろう。本人は隠しているつもりなのかもしれないが、その感情は表からも丸見えだった。
 と、すれば――。
 女としても、学に誘いをかけることは気が引けただろうと思える。
 そうすると、かなり絞られてくる。
 裕子に思いを寄せていると知りながら、それでも声をかけられる女とは誰か――。
「もしかして」
 晃仁はごくりと唾を飲んだ。
「学先輩をここに誘ったのは――」
 そして晃仁は、予想した人物の名前を言った。

 ※

 ――そこまで読むとは。
 学は、正直なところ舌を巻いていた。この晃仁という小柄な男は、後輩ながら甘くは見られない。派閥を結成し、ノートを置き忘れた場所を突き止め、砂糖を使って筆跡の解読までしてみせた。そして学をこの店へ誘った人物まで見事に言い当てた。
 この場所へ誘った人物については予想の域を出なかっただろうが、それでも結果的に言い当てたのだから唸らざるを得なかった。
 晃仁が口にした予想に対して、学は素直に認めた。その通りだったからだ。それに、隠したとしても、晃仁だったらいずれ突き止めるだろう。
「やっぱりそうですか」
 と晃仁はやや重い表情で呟いた。明るく朗らかに笑っていることが多い晃仁には、珍しい表情だった。
「僕は中学生の時から知っているんですが、きっと学先輩の期待は裏切られますよ」
 そして、本当はどんな人柄なのかを、晃仁は語った。そのどれもが具体的な言葉で説明されていて、悪い印象を持たせるために誇張したりするような表現はなかった。

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