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じゃん・けん・ぽん!!

第14章 第1回戦

 あくまで巫山戯ているふうを装って、晃仁の肩をつかみ、あるい首に腕を巻き付け、ジュースを飲もうとか、屋台でたこ焼きを買って食べようとかいろいろと言ってきた。
 逃げられなかった。
 ――このままでは諜報活動ができない。
 そう思ったが、体力や腕力においてはまったく自信のない晃仁には、この場を凌ぐ方法が見つからなかった。

 ※

 ――遅い。
 信じていたはずの晃仁が来ない。
 裕子はグラウンドの北側に用意された椅子に座って、落ち着かない気持ちを持て余していた。
 晃仁は、裕子に勝利をもたらすために、対戦相手を騙すと言っていた。しばらくしたら、どんな手を出せば勝てるかを報せるから待っていてくれと言っていたが、いまだに戻ってこない。
 まさか裏切るようなことはないと思ったが、この土壇場で予定が狂うと、いらない不安が胸をよぎる。
 何かあったのだろうかと心配をしていると、ついに対戦開始の時間になってしまった。演説台の上で、副会長が声高に戦いの開始を叫んでいる。
 ついに晃仁は戻らなかった。
 ――こうなったら。
 裕子も無策だったわけではない。もちろん晃仁のことは信頼していたが、それでも何があるかは当日になってみないとわからない。不測の事態があったときのためにと、祐子は個人的にも策を練っていたのだった。
 晃仁が戻らない今、どうやら、その策を使うしかないらしい。
 裕子は椅子から立ち上がりながら、そっとポケットに忍ばせておいた――〝糊〟を取り出した。

 ※

 まったく勝算がないわけではなかった。
 ひとつだけ、健人には考えがあった。これまで二回、裕子にはじゃんけんで負けている。そのいずれもが、手を読まれていたための敗北だった。
 今度も、ちょっとした何かで心の内を読まれて勝利をもぎ取られてしまうかもしれない。
 健人の勝算は、〝何も考えないこと〟だった。
 どんな手を出そうかと考える、または出す手をあらかじめ決めておく――そうすると、それが何らかの形で読み取られてしまうおそれがある。だから、出す手は戦いの直前までは決めない。考えもしない。そうすれば少なくとも手を読まれることはない。

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