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じゃん・けん・ぽん!!

第14章 第1回戦

 その美人が、真剣な面持ちで健人を真っ直ぐに見ている。健人は、体が石になったかのように硬直していた。
 そして、さっきの言葉の真意を尋ねた。
「グーを出すって、どういうことですか。なんで、手を教えるんですか」
 理由がなければ、単なる揺さぶりだろう。その場合は、健人が考えていたように、どんな手を出すかを運に任せれば問題はない。しかし、どうやら揺さぶりではなかったらしい。裕子は健人の質問に、こう答えた。
「私は、恨まれたくないから」
 そして、ふと、視線を逸らせた。その視線を、健人は追う。
 二人の立つ演説台の周囲に、ほぼ全員と言っていいくらいの生徒たちが、まるで誘蛾灯に誘われた子虫のように群がっている。

 恨まれたくないから――。

 はじめは意味がわからなかったが、自分たちを囲む群衆を見ると、その意味がよく分かった。
 つまり、もしこの戦いに勝てば、この群衆の半分を敵に回すことになる――ということだ。でも、だとしたら――。
「それなら、そもそも辞退すればよかったじゃないですか」
「そんなことできないよ。そんなことしたら、今度は私を選手に選んでくれた人から文句言われるし」
「それは、負けても同じことじゃないんですか」
「そんなことはないよ。戦って負けるのと、辞退して戦いもしないことはぜんぜん違うからね」
 確かにその通りだ。しかし、これは詭弁というものだ。
「会長、それはおかしいですよ」
 そして健人は、裕子の論旨の穴を突いた。
「もし勝てば敵に恨まれる――それはそうかもしれまん。だとすると、もし勝てば、味方には感謝されるっていうことです。つまり、差し引きゼロです。なのに、なんで敢えて勝ちを俺に譲るんですか」
 もし答えられなければ、裕子の言葉はただの揺さぶりに過ぎない――かもしれない。
 ――どう答える。
 健人は裕子の言葉を待った。
 ふ――と裕子は笑った。

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