じゃん・けん・ぽん!!
第14章 第1回戦
裕子は笑うでもなく厳しい表情をするでもなく、ただ目を開いたまま、瞬きもせずに健人の顔をじっと眺めている。
――信じてもいいのだろうか。
健人は裕子の表情を眺めながら黙り込んだ。
健人がなかなか言葉を発さないので、裕子は疑問に思ったのだろう。
「どうしても信じられないなら、証拠を見せるから」
「証拠、ですか」
つまり、絶対にグーを出すという証拠――ということだろう。しかし、どうしたらそんなことを証明できるというのか。不思議に思って裕子を見ていると、裕子は右手に持っていたモノを胸の前に差し出した。
実は、目を開いてからずっと気にはなっていたのだ。なぜ裕子が糊なんかを持っているか――ということが。
見ていると、裕子は次に、左手を胸の前に差し出した。その手のひらを、上に向ける。
――まさか。
健人が見ていると、裕子は案の定、左の手のひらに、糊を絞り出した。どろりとした透明な液体が、裕子の手のひらに落ちる。糊は徐々に手のひらに広がり、やがて裕子の細い指の間からだらだらと落ち始めた。糊が、手のひらにひとしきり行き渡ると、裕子は手をぎゅっと握って拳をつくった。
「おお」
生徒たちの間から驚きの声が湧く。
そのまましばらく時間を置くと、裕子は握りしめた手を眺めて、よし、と呟いた。そして、
「ほら、これが証拠」
握りしめた拳を健人の目の前に出して寄越した。
その拳を、健人は眺める。確かにこれなら、グーしか出せないだろう。見れば、指の間や手のひらの皮膚は、まったく密着している。かなり力を入れているせいか、裕子が力を入れて手を開こうとしても、密着した皮膚が限界まで伸びて、離れない。とても痛そうだ。
「信じてくれたかな」
もう信じるしかなかった。
健人は黙って頷いた。
「そろそろいいでしょうか」
傍らに立っていた副会長が言葉をはさむ。
健人と裕子は、極めて小さな声で話していたので、その内容は、副会長にも聞こえていないだろう。だから、演説台の下から見上げている生徒の群れにも聞こえていないはずだ。さぞかし奇妙な沈黙が続いたとでも、思っているかもしれない。
「いいです」
健人と裕子は、同時に頷いた。
――信じてもいいのだろうか。
健人は裕子の表情を眺めながら黙り込んだ。
健人がなかなか言葉を発さないので、裕子は疑問に思ったのだろう。
「どうしても信じられないなら、証拠を見せるから」
「証拠、ですか」
つまり、絶対にグーを出すという証拠――ということだろう。しかし、どうしたらそんなことを証明できるというのか。不思議に思って裕子を見ていると、裕子は右手に持っていたモノを胸の前に差し出した。
実は、目を開いてからずっと気にはなっていたのだ。なぜ裕子が糊なんかを持っているか――ということが。
見ていると、裕子は次に、左手を胸の前に差し出した。その手のひらを、上に向ける。
――まさか。
健人が見ていると、裕子は案の定、左の手のひらに、糊を絞り出した。どろりとした透明な液体が、裕子の手のひらに落ちる。糊は徐々に手のひらに広がり、やがて裕子の細い指の間からだらだらと落ち始めた。糊が、手のひらにひとしきり行き渡ると、裕子は手をぎゅっと握って拳をつくった。
「おお」
生徒たちの間から驚きの声が湧く。
そのまましばらく時間を置くと、裕子は握りしめた手を眺めて、よし、と呟いた。そして、
「ほら、これが証拠」
握りしめた拳を健人の目の前に出して寄越した。
その拳を、健人は眺める。確かにこれなら、グーしか出せないだろう。見れば、指の間や手のひらの皮膚は、まったく密着している。かなり力を入れているせいか、裕子が力を入れて手を開こうとしても、密着した皮膚が限界まで伸びて、離れない。とても痛そうだ。
「信じてくれたかな」
もう信じるしかなかった。
健人は黙って頷いた。
「そろそろいいでしょうか」
傍らに立っていた副会長が言葉をはさむ。
健人と裕子は、極めて小さな声で話していたので、その内容は、副会長にも聞こえていないだろう。だから、演説台の下から見上げている生徒の群れにも聞こえていないはずだ。さぞかし奇妙な沈黙が続いたとでも、思っているかもしれない。
「いいです」
健人と裕子は、同時に頷いた。