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じゃん・けん・ぽん!!

第15章 第2回戦

 晃仁の言う通りだった。確かに、初めから負けるようにと説得されていたら、健人は反対していたかもしれない。〝毒されている〟という表現には、いまだ納得したわけではないが、説得が無理だと思ったから仕方なく騙した、という部分は認めざるを得ない。
「わかったよ。わかったから立てよ」
 健人は、晃仁の脇の下へ手を入れて、引っ張った。それに頼るかのように、晃仁は自らも足に力を込めて立ち上がる。
 そして晃仁は、両手で膝についた土を払った。
「健人は、もし負けたとしても、何の損をしない。でも会長は、負けたら恥ずかしい思いをしないといけないかもしれないんだ。だから、頼む」
 晃仁は、おもむろに健人の手を両手で握りしめた。そして――。
「ここは会長に譲ってやってほしい」
 そう言った。
 損がないわけではないが、友人がここまで頭をさげて、こうして熱心に頼んでいるのだ。健人は仕方ないながらも、
「わかったよ」
 そう言った。
「ありがとう。今度こそ会長はグーを出すから、健人はチョキを出してくれないか」
「チョキ――か」
「うん」
「わかった」
「頼むよ」
 晃仁はそう言って、健人のもとを去っていった。健人の承諾を得たことを、裕子に報せるのだという。
 健人は溜息をついた。人と争うのに、負けることを目的にしたことは、今までに一度もない。よほどの理由がない限り、誰でもそうだろう。
 ふたたび、演説台の上から副会長が第二回戦の開始を宣言し始めた。
 とても晴れやかとは言いがたい気持ちだったが、健人はそのまま演説台へ向かった。その時だった。

「あの――」

 健人は呼び止められた。振り向くと――。

 ※

 ――さすが晃仁くん。
 演説台で健人と向かい合いながら、裕子はほっとしていた。一回戦目は、自分の用意していた考えでなんとか勝利をもぎ取ったものの、それ以降をどうして戦うかまでは考えていなかった。しかし、晃仁の報告によれば、健人は負けることを約束してくれたらしい。そして晃仁が、お互いにどんな手を出せば裕子が勝てるかを伝えてくれるという。あとはそれに従って、形式的なじゃんけんをすればいいだけだ。

「それでは時間もないので、すぐに二回戦を始めてもいいですか」

 副会長が抑揚のない声で言う。

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