妖魔の憂鬱
第5章 朝田 順子(あさだ じゅんこ)
何冊かの本を読み、すっかり物語の主人公の思考になった順子は、扉の向こうの物音を聞きその場にスクッと立ち上がった。その瞳は使命感に満ち、じっとしては居られないと書いてある様だ。
読んでいた本を端に置き、壱星が出て行った扉をソッと開いた順子は、廊下に顔だけ出した。廊下の少し先の扉からフード付きのマントを羽織った子供を見つけ、順子は覗き混んでいた頭を戻し…扉のほんの少しの隙間から様子を伺った。
フードで顔が見えない子供は静かに扉を閉めて、そのまま長い廊下を奥に進んだ。子供の姿が見えなく成るのを見送ると、入れ替わりに順子は廊下に出た。
順子は音をたてない様に、子供が出て来たその部屋の扉を少し開けた。開いた隙間から、レモンティーとブランデーの芳醇な香りと蜂蜜の様な甘い匂いに混じって、シナモンやハーブの鼻の奥を擽る様な香りが、順子の欲求に絡み付く。
食べてしまいたいその匂いに誘われて、順子は部屋の中に入った。
「待ってぃましたよ…イヤ、私が待たせてしまったのかな・・・」
順子は美味しいそうな匂いに夢中で、誰も居ないものだと思い込んでいた部屋の奥から、声を掛けられた事にひどく驚いて身を竦ませた。
「こっちへおいで」
姿の見えないその声に導かれる事に抗わず、『恐怖が無知から来るのなら、知ってしまえば怖くない!』という探求心に突き動かされるままに進み、順子はソファーとテーブルの横の衝立に浮かび上がった影を見つけた。
読んでいた本を端に置き、壱星が出て行った扉をソッと開いた順子は、廊下に顔だけ出した。廊下の少し先の扉からフード付きのマントを羽織った子供を見つけ、順子は覗き混んでいた頭を戻し…扉のほんの少しの隙間から様子を伺った。
フードで顔が見えない子供は静かに扉を閉めて、そのまま長い廊下を奥に進んだ。子供の姿が見えなく成るのを見送ると、入れ替わりに順子は廊下に出た。
順子は音をたてない様に、子供が出て来たその部屋の扉を少し開けた。開いた隙間から、レモンティーとブランデーの芳醇な香りと蜂蜜の様な甘い匂いに混じって、シナモンやハーブの鼻の奥を擽る様な香りが、順子の欲求に絡み付く。
食べてしまいたいその匂いに誘われて、順子は部屋の中に入った。
「待ってぃましたよ…イヤ、私が待たせてしまったのかな・・・」
順子は美味しいそうな匂いに夢中で、誰も居ないものだと思い込んでいた部屋の奥から、声を掛けられた事にひどく驚いて身を竦ませた。
「こっちへおいで」
姿の見えないその声に導かれる事に抗わず、『恐怖が無知から来るのなら、知ってしまえば怖くない!』という探求心に突き動かされるままに進み、順子はソファーとテーブルの横の衝立に浮かび上がった影を見つけた。