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テントの中でなんとやら

第1章 濡れた記念日

 今まで、私の心を弄んでくれて、ありがとうとね。

 私の両手両足が、タカアシガニのように伸びる。

「こうちゃん……ひょっとして……他に女が……出来たの……」

 沸々と怒りが熱くなり、徐々に理性も薄れていく。

「落ち着け、貞子」

「ただでは消えるもんですか……道連れにして……あ……」

 今の私はこうちゃんの前にいた、一人の女じゃない。徐々に怨念だけの塊と化する。

「聞け、貞子。決して俺に新しい彼女が出来たわけではない。人間ではないお前と、これ以上、付き合えなくなったんだ」

「そ……その……り、理由……」

 私の意識が薄くなりつつあった。それでも、最後にこうちゃんの言い分を聞いてみようと、最後の意識を集中させた。

「俺は……スーツアクターとして、ヒーローの特撮物に、悪役として出ることが決まった……だから、もう会えない」

 それはよかった。おめでとう……と、言いたい。

 でも、私は、こうちゃんと離れるのはいや。最後まで……とりついてやる。

「ちな……みに、なんて……いう……作品?」

「秋から放送予定の、お面ウォーカーだ」

 弱そうなヒーロー。

 でも、決まってよかった……普段のあなたは……普段のあなたは……。 

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