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高校生だってムラムラする。

第2章 キス



 私は午前中の夏期講習のあと、自クラスの教室へと向かった。予定では、夏休みが明けてから開催される文化祭の準備をすることになっているが、参加する人数にはあまり期待出来ない。
 日差しがない分校舎の中は外よりも涼しいけれど、やはり暑いことには変わりない。教室も、当然の如く蒸し風呂状態だろうと思っていた。

「……黒崎?」
「成瀬か」

 だが予想に反して、引き戸を開けた教室からは冷えた空気が少しだけ漏れていた。汗をかいて、襟元がじとりと湿ったブラウスが冷たくなる。
 そして、その中で気だるげに椅子に座っているのは、恋人である黒崎誠だった。

「何、してるの」
「読書感想文の題材さ」

 そう言って、黒崎は手に持っていた本の表紙を私に見せた。有名なタイトルだが、私はまだ読んだことはない。

「そう」

 相槌は打ったものの、私は気もそぞろに彼を見つめていた。
 黒崎は、学年屈指の美男子と名が挙がるほどにハンサムだ。切れ長で涼やかな瞼をしていて、それでいて眼力が強い。きりりと凛々しい眉も、通った鼻筋と薄めの唇も、私はとても好きだった。

「成瀬?」

 怪訝そうに名前を呼ばれ、ハッと我に返る。

「体調でも悪いのか?」
「あ……いや、大丈夫」

 心配されて急に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。顔と体から汗が吹き出した。ごまかすためにハンドタオルを取り出して、汗を拭き取った。

「今日、暑いね」
「ああ……」

 首筋やうなじを拭っていると、黒崎と目が合った。彼は慌てて目線をそらし、私に背を向ける。

「え……」
「……見られるの、嫌だろ。終わったら教えて」

 俯いてしまった黒崎は、腕を組んでいるようだった。着替える訳でもないのに、なぜ後ろを向いてしまったのだろうか。

「ありがとう、もう終わったから」

 何となく気まずそうな表情の彼がこちらを向き、尋ねる。

「このあとはどうするんだ?」
「人手が足りないから……、計画を詰めるしかないね」

 机を二つつけて話していると、妙に目線が合った。その割にはすぐにそらされてしまい、私はやきもきしているところだった。
 かなり細部まで計画は詰められていった。これがなかなか難しく、行き詰まってしまうこともしばしばある。だが、助けてくれる人がいるというだけで、心に余裕が生まれた。


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