あたしの好きな人
第9章 恋しない女
「店長~、みんなで飲みに行こうって言ってるんですけど、店長はどうですか?」
定時に仕事が終わり、手早く荷物を纏める。
席を立ち上がり、みんなににっこり笑って、手を振った。
「……ご免なさい、用事があるからこれで、お疲れ様」
そのまま、歩き出す。
「……やっぱり、無理だった~」
「だって、店長って、ここの社長と付き合ってるって噂でしょう?」
「あら?あたしはカミヤダイニングの社長と恋人同士って聞いたけど?」
「え~?政治家の愛人って噂もあるけど……本当謎よね?なんで独身なんだろ?」
「普通の男とは恋愛対象にならないのよきっと、あんたらなんて、問題外」
え~っ、
あたしの噂話で盛り上がる、社員の話は聞こえない振りをして、
一人で行き付けのバーに向かう。
パスタと生ハムサラダとビールを注文して、チビチビと飲んでいた。
今日は週末だから、店内は忙しそうだ。
注文した料理を食べ終えて、追加でビールを飲むと、ふと、視線に気が付いた。
カウンターに座る、あたしの3つイスぶん離れた場所に、
ドキリとするような美形な男の人が座って、じっとこっちを見ている。
髪は黒髪でさらりとしている。
切れ長の瞳は大人の色気を醸し出している。
目が合ったから、取り敢えず営業スマイル、ふいと顔を反らして、ビールを飲む。
……まだ、見てる。
視線で分かってしまう。
……いったい、なんなの?
ナンバ?
ビールはまだ残っているけど、彼の視線から逃れる為に、席を立ち、会計をすました。
店を出て、誰もついて来ないから、ほっとして、せっかくだから、
庶民的な居酒屋に一人で入った。
焼酎の芋の水割りを注文して、卵焼きを食べていると、
入り口のドアが開き、先ほどバーで会った男の人と目が合った。
ビールを飲む、手がぴたりと止まってしまう。
ふっと笑うその人は、あたしと視線を反らさずに、ゆっくり席に近付いた。
「やあ、隣に座ってもいい?」
あたしの隣に、返事してないのに、もう座ってるし。
彼は生ビールと、唐揚げを注文していた。
唐揚げが少し気になってしまう。