あたしの好きな人
第9章 恋しない女
夜中に目が覚めて、慌てて逃げるよいに、家へと帰った。
一人暮らしのマンションに帰り、自己嫌悪に陥る。
ああ、また、このパターン。
どうしてあたしは毎回、こんな失敗をやらかすの?
お酒は暫く飲まないようにしようかしら?
休日に反省して過ごして、月曜日になにごともなかったように、
完璧な身なりで出社した。
みんなに朝の挨拶を済ませ、珍しく社長が来ていた。
桐谷社長、相変わらずの渋い美形に、少しときめいて、その隣にいる人を見て、
心臓が止まりそうになった。
「みんなに話があるから、ちょっと来てくれ?」
社員がぞろぞろと集まり、桐谷社長の隣にいる人に、視線が集まった。
「……こいつな、俺の弟なんだが、ちょっと俺が新しく事業を立ち上げることになり、こいつにうちの会社を引き継いで貰うことになった」
桐谷社長が彼の背中を軽く押し、恐ろしく綺麗で色気のある男の人が、
みんなの前で優雅に頭を下げた。
「桐谷 皓です、この業界ははじめてなので、一から教えて貰えたらと思ってます、よろしくお願いします」
……桐谷 皓、皓さん。
……ってことはあたしは桐谷社長の弟と、寝ちゃったってこと?
……くらりと頭が真っ白になる。
「まあ、前は税務署で働いてたから、大学も法学部だし、そっち方面は心配ないんだが、取り敢えず、青井」
桐谷社長に名前を呼ばれて、びくりと顔を上げた。
「はい」
「暫くお前が指導してやってくれ、仕事の内容も分からないと話にならないからな?」
「はい、分かりました」
嘘でしょうっ、なんであたしがこんなやつっ、
「青井はここの店長だから、何でも聞いたらいい」
「へぇ、随分と可愛い店長さんだな?」
桐谷社長にぼそりと言って笑う皓さんに、社長はピシャリと言う。
「……馬鹿、青井は色々あったから、変な癖はだすなよ?」
桐谷社長はおおまかな、あたしの事情を知ってるから、そう言ってくれたんだろう。
「気になるね?」
ニヤリと笑いながら、意味深な笑顔を向けられる。
「…じゃあ、さっそく仕事を覚えて貰いますから」
何か言いたげな皓さんを連れて、デスクに引っ張って行った。