あたしの好きな人
第9章 恋しない女
仕事の内容を大まかに教えて、明日の挙式の準備とホテルの打ち合わせに、出掛ける準備をする。
うちは独立したチャペルがあるのが売りなんだけど、披露宴会場は比較的に小規模。
スケールの大きい披露宴となると、どうしても提携してるホテルを利用するお客様がいる。
そのための打ち合わせは、密にしとかないと、細やかなサービスが提供出来ない場合がある。
アットホームな結婚式を挙げる人も、近年増えてきてるから、需要もあるけど。
わざわざホテルに何度も足を運ぶのも、挙式を間近にすると、これが何度もとなってしまうから、
大変ではある。
会社の車に、皓さんと一緒に乗る。
次期社長って、こんな業務まで教えるべきなんだろうか?
ふと思うけど、目が合うと、フッと笑う。
相変わらず、何を考えてるのか、分からないような笑顔。
胡散臭い。
ふいと目を反らせて、エンジンをかけた。
ホテルまではそんなに遠くない距離。
運転している間、じっと見られている視線に、苛立ち、前を向いたまま、口を開く。
「……なに?」
「明るいとこで見ると、綺麗だなと思ってね」
「真面目に仕事はして下さい、それから、あのことは誰にも言わないで……、社長にも」
「要のこと?女性社員が噂してたけど、咲良はあんなバツイチのオッサンが好きなのかな?」
……また、それ。
桐谷 要社長、今までは社内の書類でその名前を見るだけの存在だった。
時々見掛けて挨拶するだけの、遠い存在だったけど、
店長になり、何度も仕事の話をするだけで、そんな噂がたちだした。
横浜に来る前に、助けを求めたのは、要社長だったし、親身になってくれた。
……心配してくれてるだけなのに。
下らない噂だ。
「あなたはそんな噂を真に受けるの?」
「いや、別に、ただ俺もここに来て、書類を見たら、咲良は大阪で産休を取ったのに、ここに来て取り消しになっている、妊娠しておろしたか、流産したのかと思ったわけだ」
「……!」
赤信号になり、車を止める。
一瞬、思い切り、ひっぱたいてやろうかと思うけど、
落ち着くように、深呼吸する。
大阪の社員は、多分みんな知っている筈だ。
だから下らない噂も出回る。
「……社員のプライバシーよ、あなたには関係ないことだわ」