あたしの好きな人
第1章 会社の部下
『お疲れ様です!』
『かんぱい~』
会社の飲み会に、あたしの行き付けのバーを紹介した。
内々での飲み会、うるさい上司もいなくて、気の置ける同僚と部下ばかりの集まりだ。
ウェディングプランナー、大学卒業後に就職、キャリアを積んで、部下も出来て来た。
『咲良先輩、お疲れ様ですっ、いやぁ、今日の新郎新婦素敵でしたね~』
『美男美女のカップル、親族様も感じのいい人達で、お客様がみんなああだったらいいんですけどね?』
『ドレスも素敵でしたね?咲良先輩の好きなブランドですよね?』
ビールを飲みながら、ほっと息をつく。
「あそこのドレスは間違いないのよ?ほとんどのお客様が気に入って下さるから」
『あたしも結婚式の時はあそこのドレス着てみたいです』
『あっ、でもあたし達より、先に咲良先輩ですよ~?彼氏とはどうなってるんですか?』
「……そんなのいないわよ」
『えっ?こないだ迎えに来たイケメンがいなかったですか?』
「あれはもう、別れたのっ」
『えぇっ、そうなんですか?すいません』
みんなが気まずそうに、顔を見合わせている。
「いいのよ、気にしないで」
なるべく平気なフリをして、笑顔で席を立った。
トイレに行くことを伝えて、バーのカウンターの中にいる人物と目が合った。
大学の頃からの友人、今ではこのバーのオーナー。
神谷 岳人。
彫りの深い美形、髪色も薄茶でお洒落、派手な外見をしている。
「よぉ、咲良、飲んでるか?辛気臭い面してるなぁ?」
あたしが元カレにフラレたことも知ってるからか、にやりと笑う。
「べっつに、もう気にしてないもん」
ぷいと顔を反らして、化粧室に向かった。
イライラしながらドアを開けて、化粧直しをする。
鏡の中のあたしは、不満そうな顔をしていた。
カツをいれるように、頬を叩いて、化粧室を出た。
化粧室を出てすぐに、部下の日野くんに出会った。
スラリとした長身で、爽やかなイケメン、お客様のウケもいい。
期待できる存在だ。
「咲良先輩……っ」
「日野くんもトイレ?」
「いえ…っ、俺は、咲良先輩を待っていたんです。……その、彼氏とは別れたと聞いて、いても立ってもいられなくて」