あたしの好きな人
第1章 会社の部下
少し顔を赤らめて、あたしの顔を真っ直ぐと見る。
その瞳に、はっきりとした熱情を感じて、少し戸惑う。
「……ごめんね、あたし同じ職場の人とは、そういうのはちょっと、それに年ももう……」
あたしはもう26歳、日野くんは確か年下だった筈だ。
ハッとしたように、あたしの手を掴まれた。
「3つ年下とか、対して変わりはないです、うちは社内恋愛禁止でもないですよね?そんな理由じゃあ、諦めません、俺と付き合って下さい」
「……なんであたしなんか、他にも可愛い子が沢山いるでしょ?」
会社の人は美形が多い、特に未婚の結婚に憧れてる女子社員はごまんといる。
「入社した頃から、ずっと咲良先輩が好きなんです、でもいつも咲良先輩には彼氏がいたから……」
確かに、常に彼氏はいた。
すぐにふられちゃうんだけどね?
年下の部下か……。
今まで、年上のハイスペックな人とばかり付き合っていたから、同じ職場の部下なんて、問題外だと思っていたけど。
思わず、まじまじと日野くんを見てしまう。
「咲良先輩……?」
首を傾げて、あたしの表情を読もうとしてる仕草に、不覚にも胸がときめく。
「取り敢えず……適当に理由つけて、二人で飲み治す?」
「……えっ?それって、咲良先輩?」
「勘違いしないでよ?飲み治すだけだからっ」
期待させないように、わざとそう言うと、満面の笑みが返ってきた。
「はいっ、すぐに準備してきますっ」
子犬がしっぽを振る勢いに、笑いながら見ている自分に気付いた。
時間をずらして、皆に仕事の用事が入ったことを伝えて、荷物を纏める。
カウンターの中にいる、相変わらず忙しそうな、岳人に手を振る。
食器を置いて、サロンをさばくような、素早い身のこなしで、あたしに近付く。
「……お前まさか、年下なんかに手を出すつもりか?言う事聞く、子犬タイプなら、振られずにすむってか?」
「……うるさいっ」
「お前酔ってるだろ?……そのへんで頭でも冷やせ、連れて帰ってやるから」
「いらないわよ~だっ」
「……お前~っ、酔ってるなら大人しく、待ってろよっ!」
腕を掴まれて、振り払いながら、回りのお客さんに笑って誤魔化す。
「じゃあね~、ご馳走様でした~」
「……ばかっ、咲良……っ」
無理矢理強引に店を出て、するりとお洒落なドアをくぐった。