あたしの好きな人
第1章 会社の部下
「日野くん、お疲れ様」
深夜まで営業しているバーで待ち合わせて、日野くんはカクテルを飲んでいたから、
同じようにカクテルを注文する。
二人で乾杯して、ちびちび飲む。
……岳人の作ったのが、もっと美味しいかも。
「……それで咲良先輩、俺と付き合ってくれるって、考えてくれました?」
ストレートに話を振られて、喉が詰まりそうになる。
「……そうね、まだ分かんないわ。あたし、結婚願望はあるのに、いつも理想が高くて、そんな人に合わせようと無理しちゃって、結局最後はフラレるの。……日野くんとそうなるのは嫌だなって思って」
同じ職場だし、気まずくなるのは嫌だ。
あたしの言葉に、日野くんはパチパチ目を瞬いた。
「……それって、別れるの前提ですか?もちろん俺だってこの年だし、結婚も視野にいれてますけど、咲良先輩なら問題ないと思ってるんですけどね?」
「いやいやいや…っ、さすがにそれはちょっと…っ!」
顔に熱が集まり、意味なく顔を手で扇いでしまう。
その手を、きゅっと掴まれた。
「……それに俺、知ってますよ?咲良先輩の大好きなおばあちゃん、もう長くないから、早めに結婚式に呼んであげたいって思っているですよね?」
「……っ、何でそんなこと知って…っ」
「すいません、こないだ話しているの、聞いてしまいました」
悪気なさそうに、謝る日野くんに、嫌な気持ちにはならなかった。
あたしはおばぁちゃん子で、今は入院しているおばぁちゃんの病院に、
ほぼ毎日、お見舞いに行っている。
うちは母子家庭で、仕事で忙しいお母さんの変わりに、おばぁちゃんとずっと一緒に過ごしていたから、
おばぁちゃんの寿命を考えたら、悲しくなる。
「……だけど、咲良先輩、その前にまず知りたいことがあります」
「何かしら?」
手を掴む指先がするりと官能的に、撫でられた。
「咲良先輩と俺との、体の相性です」
大真面目な顔で、真っ直ぐに見つめられて、あたしは何も言えずに、
ただ見つめ合っていた。