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あたしの好きな人

第4章 離れて気付く思い




ずっとこの時間が止まればいいのに。

だけど、ずっと一緒にはいられない。

あたしは、岳人の傍にはいられない。

岳人が仕事に一生懸命なのも知っている、目標を持っているのも。

あたしにだって夢がある。

ファイナルプランナーは、あたしにとっては天職みたいなもの。

独身の人達の手助けをする仕事もあるし、結婚式の準備や相談その他もろもろ。

不幸せだった母の背中を見て育ち、少しでも、女性を幸せにしないといけない。

黙っていなくなるあたしを、岳人は今度こそ、愛想を尽かすかもしれない。

だけど……。

おばあちゃんの死を一瞬でも願ったあたしが、まだ、幸せになる訳にはいかない。

一年なのか二年なのか分からないけど、今はまだ、岳人の傍にはいられないから。

婚約指輪を外して、ベッドで幸せそうな寝息をたてる岳人の傍に置いた。

気付かれないように静かに服を着て、散らかしてある薔薇を片付けて、無事だった数本を鞄の中に入れた。

もう一度岳人の傍に近付いた。

薔薇の花の花言葉は……。

「……愛してる」

眠る岳人の唇にキスをして、ホテルから出て行った。

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