あたしの好きな人
第5章 新しい生活
哲が家に入り浸りになってから、ピルを飲むようにしていた。
セフレと割り切った関係だけど、妊娠するわけにはいかないし。
『痛い思いをするのは、いつも女なのよ……』
……泣いてたお母さんを見て育ったから、あたしはあんな生き方はしたくない。
例え運良く自分だけが、生を受けた存在だとしても。
そのぶん幸せにならなきゃいけない。
シャワーを浴びて、身体中の体液を洗い流し、仕事に行く身支度をする。
台所に行くと、哲が朝食を用意してくれていた。
ベーコンエッグにサラダとコーヒー。
「貰ってたベーコン、使ったけどいいよね?」
お客様からお礼だと、ハムとベーコンの詰め合わせを貰っていた。
「いいけどさ、たまには家に帰りなさいよ」
すぐ隣に住んでる癖に、なかなか家に戻らない哲を軽く睨む。
「あれ?……やっぱダメだった?俺も貰ってるから、ちゃんとあげるよ?」
「いや、そうじゃなくてね?哲の私物がどんどん増えてんだけどっ?」
テーブルに向かい合わせで座り、頂きますして食べはじめた。
同じように食べはじめた哲が、少ししてから、ポツリと口を開いた。
「……だって咲良ってば寂しがりじゃん?一人じゃ眠れない癖して強がっちゃってさ?」
「はぁっ?あたしがいつ、寂しがってたっ?」
「見ればそんくらい分かるよ、前のアパートだって一人暮らしって訳でも、なかったみたいだしね?」
「……っ!」
前のアパートに哲は一度くらいしか、来たことはない筈だ。
「男モノのエプロンに洗濯物、歯ブラシまであるとさすがに気付くし、アパートの前で会ったことも実はあるんだよね?」
「……はぁっ?何を言って…、いつよそれ?」
「……聞きたい?」
ふっと笑う哲。
いつものように、からかってるだけかもしれない。
ほぼ一緒に生活してみて、分かったのは、哲が意外にも、したたかな性格だった、ということ。
いつもにこにこして、男の人の割には、良くしゃべる。
でも本心はあまり見せない。
笑ってるのに笑ってなく、何を考えてるのか分からない。
平気で嘘をつくし、騙すし、哲に巻き込まれて、流されてしまっている。